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長崎地方裁判所 昭和55年(ワ)242号 判決

原告

永尾和美

ほか一名

被告

長崎自動車株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告永尾和美に対し、金一二一九万七九一六円及び内金九六九万七六一六円に対する昭和五四年七月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告永尾優子に対し、金一七五四万八一二八円及びこれに対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告永尾和美に対し、一九一六万三〇四二円及び内金一五一六万三〇四二円に対する昭和五四年七月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告永尾優子に対し、二六五三万一五二八円及びこれに対する前同日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

13 仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五四年七月一四日午後六時二五分頃、長崎県西彼杵郡琴海町村松郷三九九番地先道路上において、被告平島春好の運転する事業用大型乗用自動車(定期路線バス、以下被告車両という。)が訴外永尾忠彦(以下訴外忠彦という。)運転の普通貨物自動車に正面衝突し、そのため訴外忠彦は、脳挫傷等の傷害を受けて治療中であつたところ、同月一九日午後三時四〇分ころ、長崎市籠町七番一八号十善会病院において死亡した。

2  責任原因

(一) 被告長崎自動車株式会社(以下被告会社という。)は、本件事故当時、被告車両を所有し、自己のために運行の用に供していたのであるから、自賠法三条により本件事故によつて、訴外忠彦が蒙つた損害を賠償する責任がある。

(二) 本件衝突事故は、被告平島が、前記日時・場所において、被告車両を運転し佐世保市方面から長崎市方面に向い時速四五キロメートルで進行するにあたり、本件事故現場付近の道路は、進路前方が右に曲がる見通しのきかないカーブであり、かつカーブ個所の道路左端には折から訴外元川好子運転の普通乗用自動車が一時停車しており、右車両の側方を通過するには道路の中央線より右側にはみ出して進行しなければならない状態にあつたから、被告平島としては、右車両の後方で減速徐行して対向車両の有無及びその安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、対向車両の有無及びその安全を十分確認しないまま、前記速度で中央線より右側部分へはみ出して進行した過失により、折から対向車線を走行して来た忠彦運転の車両に、被告車両右前部を衝突させたものである。

したがつて、被告平島は、民法七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

3  訴外忠彦の損害

(一) 逸失利益 四五二七万四二三四円

訴外忠彦は、本件事故当時、訴外有限会社時津資材(以下訴外会社という。)に勤務し、一か月一六万一七〇六円の収入(同社において昭和五四年三月より三か月勤務した分の給料合計四五万五一一八円に、賞与規定により賞与として支給されるべき三万円を加えた合計金額の一か月平均)を得ており、年齢二三歳の健康な男子であつたから、少なくとも六七歳に達するまでの四四年間就労して収入を得ることが可能であり、同人の得べかりし利益は、前記平均月収より算定される年収一九四万〇四七二円より生活費を三割控除した額を基礎としてホフマン式計算法(ホフマン係数二二・九二三)により中間利息を控除すると次のとおり三一一三万七〇〇七円となる。

1,940,472円×(1-0.3)×22,923=31,137,007円

ところで訴外忠彦は、同人の勤務していた訴外会社の昇給規定によれば段階的に昇給できた筈であり、少なくとも賃金センサスから認められる平均昇給額は昇給したものと考えられるところ、昭和五三年賃金センサスによると産業計・企業規模計の男子労働者の平均年間収入は、二〇歳から二四歳では一八六万一〇〇〇円であり、五〇歳から五四歳では、三六八万二六〇〇円であるから、訴外忠彦は、事故によつて死亡しなければ、段階的に昇給して五四歳時には、年間三六八万二六〇〇円の収入を得たことになる。そこで、右金額より訴外忠彦の二三歳時の年収との差額を算出し、これを三一年間の年ごとの昇給にならすと年額五万六一九六円となる。

そこで、将来の総昇給額の現在価を算出するための平均昇給年額に乗ずべきホフマン係数をpnとしたときのp31は二五一・五七〇であるから、訴外忠彦の昇給分の総額現在価は次のとおり一四一三万七二二七円となる。

56,196円×251.570=14,137,227円

したがつて、訴外忠彦の昇給分を含む逸失利益総額は、四五二七万四二三四円となる。

(二) 慰謝料 八〇〇万円

本件事故により、一家の支柱であつた訴外忠彦が、結婚して未だ三年も経ないのに二三歳という若さで子供と妻を残し、また自己の年老いた両親をも残して世を去つた精神的苦痛に対する慰謝料。

(三) 訴外忠彦の死亡までの損害 一五三万一七二七円

(1) 入院治療費 一三八万四〇七五円

(2) 付添費用 三万六〇〇〇円

事故後六日間の入院中、危篤状態のため要した二名の近親者の付添費用。

6日×3,000円×2人=36,000円

(3) 入院雑費 一万六〇〇〇円

(4) 休業損害 三万〇三四二円

本件事故前三か月(九〇日間)の収入を基礎とした六日間の賃金。

455,118円÷90日×6日=30,342円

(5) 入院中の慰謝料 六万円

重傷入院一か月の場合三〇万円とした六日間の慰謝料。

(6) タクシー代 五三一〇円

事故当日家族が利用したタクシー代

自宅―大石共立病院(二五八〇円)

大石共立病院―滑石中央病院(一三八〇円)

滑石中央病院―十善会病院(一三五〇円)

4  原告らの相続

原告永尾和美(以下原告和美という。)は訴外忠彦の妻、原告永尾優子(以下原告優子という。)は訴外忠彦の長女(唯一人の子供)であるところ、訴外忠彦は、昭和五四年七月一九日死亡したので

原告和美の相続分は、

54,805,961円×1/3=18,268,653円

原告優子の相続分は、

54,805,961円×2/3=36,537,306円

となる。

5  原告らの損害

(一) 慰謝料 各三〇〇万円

本件事故により、原告和美は結婚して三年を経ないのに未だ二五歳の若さで夫を、同優子は満一歳で父を突然奪われ、その絶望と孤独感は筆舌に尽し難いものがあり、これを慰謝するには原告ら各自に三〇〇万円が相当である。

(二) 葬儀費用 八二万九三七八円

原告和美は、亡忠彦の葬儀費用として次のとおり合計金八二万九三七八円を出捐した。

(1) 葬儀社費用 四三万二一〇〇円

(2) お布施代 一三万三〇〇〇円

(3) 供物代他 二六万四二七八円

(三) 弁護士費用 四〇〇万円

原告和美は、本件事故につき、被告らに対する損害賠償請求訴訟の提起を本件訴訟代理人に委任し、手数料及び解決時謝金として四〇〇万円を支払うことを約した。

6  填補された損害

(一) 原告らは、被告会社より、治療費として一三八万四〇七五円、仮払金として一〇万円、自賠責保険より一八〇二万四五九三円の支払をそれぞれ受けたので、これらの金員は、原告和美及び同優子の相続分に応じた割合で各自の損害に填補された。

(二) 被告会社は、原告和美に対し、葬儀社費用四三万二一〇〇円を支払つた。

(三) したがつて、原告和美の損害は、4の相続分及び5の(一)ないし(三)の合算額より、6の(一)の応当分と(二)の和を控除した残額である一九一六万三〇四二円となり、原告優子の損害は、4の相続分及び5の(一)の合算額より6の(一)の応当分を控除した残額である二六五三万一五二八円となる。

7  よつて、原告らは、被告会社に対しては、自賠法三条に基づいて、また、被告平島に対しては民法七〇九条に基づいて各連帯して原告和美に一九一六万三〇四二円及びそのうち弁護士費用を控除した一五一六万三〇四二円については本件事故後である昭和五四年七月二〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告優子に二六五三万一五二八円及び右金員に対する本件事故後である右同日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項の事実中、(一)の事実は認め、(二)の事実は否認する。

3  同3項の事実は否認する。

訴外忠彦の昭和五三年一月一日より同年一二月三一日までの一年間の所得金額は一六八万九五〇〇円であり、同年一一月より昭和五四年一月までの三か月間の所得は二九万七六〇〇円であるところ、逸失利益の計算の基礎となる金額は過去のできるだけ長期間(本件では死亡前一年半位)の確定金額を採用すべきであり、また昇給は考慮すべきではない。

4  同4項の事実中、訴外忠彦が死亡したこと、原告らが訴外忠彦の妻及び長女であることは認め、その余は否認する。

5  同5項の各事実は否認する。

6  同6項の事実中、(一)及び(二)の各事実は認め、(三)の事実は争う。

三  抗弁

(過失相殺)

訴外忠彦は、本件時に、折からの激しい降雨の中を車両を運転走行するに当り、速度を出し過ぎたうえ前方をよく注視しないで車道の中央寄りを進行した結果本件被告車と衝突したもので、本件事故の発生及び損害の増大について同訴外人の過失(その程度は三割を下らない。)も寄与しているものであるから賠償額算定につき、これを勘酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  請求原因2(一)(被告会社の自賠法三条による責任)の事実は当事者間に争いがない。

2  請求原因2(二)の事実(被告平島の過失の有無について)について、原本の存在並びに成立に争いがない甲第四号証の一ないし一六、第五号証の一、二、第六号証の一ないし四及び第一二ないし第一五号証によれば、

〈1〉  本件事故現場付近の道路は、片側一車線で幅員約七・六メートル(西側車線のみでは三・四五メートル)のアスフアルト舗装の道路であつて、佐世保市方面から長崎市方面へ向つて、衝突地点まではほぼ直線であるが、衝突地点から先は、右にゆるやかにカーブし多少上り坂(勾配角度二ないし三パーセント)となつており、しかも右側は一・八〇メートルの歩道を経て道路面より高い崖や雑木林となつて進路前方の見通しは約七〇メートルであつた。

〈2〉  被告平島は、事故当日被告車両(車幅二・四七メートル、車長一〇・六五メートル)を運転して佐世保市方面から長崎市方面へ向けて本件事故現場にさしかかつたところ、進路左前方に停車中の普通貨物自動車(ライトバン、車幅一・八五メートル)を認めたが、対向車の有無及び同車との安全を充分確認しないまま右停止車両の後方約二六・二メートルの地点で対向車線である道路右側部分に進路を変更し中央線を越え、減速せず時速四四キロメートルで進行し、右停車車両の後部付近まで来たところ、折から対向車線を進行して来た訴外忠彦運転の普通貨物自動車(ダンプカー、車幅約一・七メートル)を前方約三六・六メートルに発見しあわてて左に若干転把すると共に急制動したが及ばず、被告車が更に一〇・一五メートル進行した地点で同車の右端を右停車車両の右横付近の中央線から約〇・四五メートルの対向車線上にはみ出した状態で訴外忠彦運転車両の前部に被告車の右前部を衝突させ、その結果被告車の右前部バンパー、ボデーが凹曲損し、右フロントガラス、右前照灯等が割れたほか、訴外忠彦運転車両の前面部、右ドアー、屋根等が大破した。

〈3〉  当日は午後六時頃から雨が降り出し一時は雷も伴つた土砂降りとなつて路面は水びたしの状態ですべり易い状況にあり見通しも悪かつた。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、現場付近の道路状況に加えて悪天候のため見通しも不良で路面も滑り易い状況にあつたのであるから、被告平島としては、被告車両を運転して対向車線に進出するに際しては停止車両の手前で減速徐行し対向車を発見した場合に速やかに避譲措置がとれるよう同車との安全を十分注意して進行すべき注意義務があるところ、同被告が停止車両の後方約二六・二メートルの地点で対向車のないことを十分確認しないまま減速することなく漫然とそのままのスピードで対向車線にはみ出して進行した過失により本件事故を発生せしめたものと認めるのが相当であるから、同人は民法七〇九条により、右事故により発生した損害を賠償する責任があるというべきである。

三  訴外忠彦の損害 五二四八万三五一七円

1  逸失利益 四三〇五万〇一六二円

成立に争いのない甲第二四号証、原告和美本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一七、第一八号証によれば、訴外忠彦は、昭和三一年一月五日生で本件事故当時二三歳の健康な男子であつて、昭和五四年三月から訴外会社に自動車運転手として勤務しており、昭和五四年四月より同年六月までの三か月間の給料合計が四五万五一一八円であつたこと、そして右会社の賞与規定により、同社では年二回従業員に賞与を支給しており就労日数が一年未満の者に対しては月一万円に労働月数を乗じた額を賞与としていることが認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。そこで、忠彦の死亡直前の得べかりし収入は、右賞与分一万円を加えた平均月収一六万一七〇六円から年収一九四万〇四七二円となる。そして、訴外忠彦の年収より控除すべき生活費の割合は三割五分を相当とするから、就労可能とみとめられる六七歳までの逸失利益の合計は、ホフマン方式により年五分の中間利息を控除(四四年間のホフマン係数二二・九二三)して昭和五四年七月の現価を計算すると、次のとおり二八九一万二九三五円となる。

1,940,472円×(1-0.35)×22.923=28,912,935円

次に、訴外忠彦の昇給分について判断すると、原告和美本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一九号証によれば、訴外会社においては毎年一回一定額(約一割)の昇給規定があることがみとめられる。しかしながら、訴外会社における訴外忠彦と同年齢、同能力の者の具体的昇給率は明確でないため、証拠により可能なかぎり同人の昇給率を検討すると、死亡直前の同人の収入は前記のとおりであるが、これは、昭和五三年度の賃金センサスによる同人と同世代の一般労働者の年間平均給与一八六万一〇〇〇円を若干上まわつており、一方、一般的に定年とされる五五歳直前の一般労働者の五四歳時の年間平均給与は三六八万二六〇〇円であるから訴外忠彦が本件事故で死亡しなければ、五四歳時の同人の収入は、訴外会社の昇給率や物価上昇に伴なうベースアツプを考慮すると、控え目に見積つても右一般労働者の収入をもつて算定することは不合理といえない。そこでこれを年ごとの昇給にならすと年額五万六一九六円となる。したがつて、昭和五四年七月における昇給分の現在価を年五分の中間利息を控除してホフマン方式により計算すると(昇給を加味した三一年間のホフマン係数二五一・五七)、次のとおり一四一三万七二二七円となる。

56,196円×251.57=14,137,227円

そこで、昇給を加味した訴外忠彦の収入合計は、四三〇五万〇一六二円となる。

2  慰謝料 八〇〇万円

原告和美本人尋問の結果によれば、訴外忠彦は妻である原告和美と長女である原告優子との三人家族で右一家の支柱であり、結婚後三年して本件事故により死亡したこと、さらに忠彦は、死亡時に両親が健在であつたことが認められる。

本件事故によつて訴外忠彦の受けた精神的損害に対する慰謝料は、本件事故の態様、傷害の部位程度、妻子・両親を残して死亡した事実、忠彦が同家族で占めた地位、年齢等本件審理に現われた諸事情を考慮し、八〇〇万円をもつて相当とする。

3  本件事故後死亡時までの損害 一四三万三三五五円

訴外忠彦が昭和五四年七月一四日午後六時二五分頃本件事故により受傷し、同月一九日午後三時四〇分頃十善会病院で死亡したことについては前記のとおり争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、同第一一号証、同第二三号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、訴外忠彦は本件事故による受傷後直ちに大石共立病院に運ばれたが、停電のため十分な治療ができなかつたのでその日のうちに滑石中央病院に転送され、次いで同日九時すぎに十善会病院に再転送されて、そのまま死亡するまで六日間入院治療を受け、その間原告和美らが付添看護に当つたこと、右入院治療費は合計一三八万四〇七五円であつたこと、をそれぞれ認めることができ右認定に反する証拠はない。

そして本件事故と因果関係のある損害としての付添看護費としては一日につき一人三〇〇〇円、入院雑費として一日一〇〇〇円をもつて相当と認める。

又前記認定のとおり、忠彦は本件事故前の三か月に四五万五一一八円の収入を得ていたものであるから一か月三〇日として一日当り五〇五六円となるが、本件事故発生が午後六時二五分であることを考慮すれば、忠彦が本件事故により死亡までの間に働くことのできなかつた日数は本件事故翌日からの五日間というべきである。

なお原告らは、入院中の慰謝料並びに家族のタクシー代を主張しているが、本件の如く事故後直ちに入院し数日にして死亡した場合の慰謝料は、受傷後死亡に至るまでの精神的苦痛を一体として評価すべく死亡事故に対する慰謝料と別個に入院中の慰謝料を算定することは相当でないというべきであり、家族のタクシー代については本件全証拠によるもこれを認めるに足りる証拠はない。

したがつて忠彦の死亡までの損害額は、次のとおり

(1)  入院治療費 一三八万四〇七五円

(2)  付添看護費 一万八〇〇〇円

(3)  入院雑費 六〇〇〇円

(4)  休業損害 二万五二八〇円

の合計一四三万三三五五円となる。

四  原告らの相続

忠彦が本件事故により死亡し、原告和美が忠彦の妻であり及び原告優子が忠彦の長女であることは当事者間に争いがなく、前掲甲第二四号証によれば忠彦の相続人は原告ら両名であることが認められる。

したがつて、前記忠彦の損害について原告和美の相続分は、一七四九万四五〇六円であり、原告優子の相続分は、三四九八万九〇一一円である。

五  原告らの損害

1  原告和美の損害 三五〇万円

〈1〉  慰謝料 三〇〇万円

原告和美本人尋問の結果によれば、原告和美は結婚後三年で訴外忠彦と本件事故により死別し、本件事故の衝撃等で第二子を流産するなど訴外忠彦の死亡で著しい精神的打撃を蒙つたことが認められる。このような原告和美のうけた精神的損害に対する慰謝料は、本件事故の態様、同人の家庭環境などの諸事情をも考慮すると、三〇〇万円をもつて相当と認める。

〈2〉  葬儀費用 五〇万円

原告和美本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第二三号証の四ないし四五によれば、訴外忠彦の死に伴い原告和美が葬儀をなし、葬儀社費用、法要、供物等葬儀費用として六八万〇九四七円、四十九日までの五回の法要費用として一四万八四三一円の各支払をなした事実が認められるが、訴外人の死亡時の年齢を考慮すると本件事故当時における損害として相当な葬儀費用は五〇万円をもつて相当と認める。

2  原告優子の損害(慰謝料) 三〇〇万円

前掲甲第二号証によれば、原告優子は生後一年七か月で父である訴外忠彦と死別したことが認められ、同人は未だ幼児ではあるが、将来精神的苦痛を感じるであろうことは必定であるから、本件事故によつて同人のうけるべき精神的損害に対する慰謝料は、本件事故の態様、原告優子の年齢・家族状況等諸般の事情を考慮すると、三〇〇万円をもつて相当とする。

3  したがつて右原告ら固有の損害に前記五の相続分を加算すると、原告和美の損害額は二〇九九万四五〇六円、原告優子の損害額は三七九八万九〇一一円となる。

六  前記二の〈2〉の各事実によれば、訴外忠彦は衝突地点まで下り勾配の故もあつてかなりの速度で進行していたこと、衝突地点における同人の進行車線は、被告車のはみ出し部分を除いてもなお約三メートルの余裕があつて忠彦運転車の車幅をもつても十分通行できる状況にあつたことが認められ、訴外忠彦としても現場の道路状況や折からの天候を考慮し、速度を落すとともに前方を注視して被告車の存在を早期に認識し適切にハンドルを繰作し左転把していれば本件事故を避けられたにもかかわらずこれを怠つたものと認めうるので、同人にも本件事故発生につき過失があるものということができ、その割合は被告平島八割に対し忠彦が二割と認めるのが相当である。

したがつて原告らは前記認定の損害額につき各八割の限度即ち原告和美は一六七九万五六〇四円、原告優子は三〇三九万一二〇八円について被告らに対する損害賠償請求権を取得したことになる。

七  損害の填補

被告会社が本件事故による損害の填補として治療費一三八万四〇七五円、葬儀社費用四三万二一〇〇円及び仮払金名義で一〇万円、合計一九一万六一七五円を支払い、原告らが自賠責保険より一八〇二万四五九三円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

これらは名義はともあれ本件事故による損害の填補として支払われたものであり、特に当事者間において支払名義毎に清算をなす合意があればともかく、全損害に対する一部弁済と解すべきである。また、原告優子が本件事故当時二歳に満たない幼児で原告和美がその親権者であることを考えると、原告和美に対してなされた弁済も原告ら両名に対しなされたものであつて前記弁済金の充当も原告ら各債権額に按分して充当されたものと解すべきである。

そうすると前記弁済金合計一九九四万〇七六八円は、原告和美に対し七〇九万七六八八円、原告優子に対し一二八四万三〇八〇円がそれぞれ充当され、残債権は原告和美が九六九万七九一六円、原告優子が一七五四万八一二八円となる。

八  弁護士費用

原告和美が本訴の提起、追行を本件訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるが、事案の内容、審理の経過、認容額等諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は二五〇万円と認めるのが相当である。

九  結論

以上のとおりであるから、原告和美の本訴請求は、金一二一九万七九一六円及び内金九六九万七六一六円に対する不法行為の後である昭和五四年七月二〇日から、原告優子の本訴請求は、金一七五四万八一二八円及びこれに対する不法行為の後である前同日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言につき一九六条一項を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渕上勤 榊五十雄 関洋子)

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